為替手形は約束手形や小切手とは違う?ルールも含めてわかりやすく解説
為替手形は三者間での決済をスムーズにするための取引方法です。本記事では為替手形の仕組みやメリット・デメリットを解説します。最後まで読むことで、為替手形で知っておきたいルールから仕訳方法まで理解できますので、ぜひご活用ください。
為替手形とは
為替手形とは手形取引の1つで、振出人、受取人、支払人の3者が関わる決済方法です。為替手形は、物流をイメージすると理解しやすいでしょう。
たとえば、花農家と花屋、結婚式場があるとします。商品である花は、花農家で生産され、花屋が農家から仕入れ、花屋が結婚式場に納品するという図式になります。花屋は花農家に仕入れ代金として100万円、結婚式場は花屋に仕入れ代金として100万円の買掛金が発生したとしましょう。
このとき、花屋は花農家に100万円の買掛金、結婚式場に100万円の売掛金が発生している状態です。図式としては、結婚式場から回収した100万円をそのまま花農家に支払う形になります。
それならば、結婚式場から花農家に直接支払ってもらったほうがスムーズです。そこで登場するのが為替手形になります。
為替手形は、花屋が「振出人」として発行します。為替手形には「○月○日までに花農家に100万円支払います」と書かれており、結婚式場は「支払人」として為替手形を受けます。結婚式場は期日になったら100万円を決済し、3者の支払いはすべて完了です。
小切手や約束手形との違い
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為替手形 |
約束手形 |
小切手 |
関係者数 |
三者 |
二者 |
二者 |
現金化のタイミング |
期日あり |
期日あり |
期日なし(いつでもいい) |
手形も小切手も、記載された金額を引き出すための証書であることは変わりません。
しかし、小切手は記載された金額をいつでも引き出せるのに対して、手形は期日が来るまで現金を引き出すことはできません。ここが大きな違いといえます。
また、為替手形は三者間取引なのに対して、約束手形は二者間取引です。約束手形は手形の振出人と受取人だけが存在し、振出人が支払義務を負います。為替手形の違いは、手形の振出人と支払人が別人である点といえるでしょう。
為替手形のメリット
入出金なしで買掛金を消し込める
為替手形は、自社の買掛金を他社への売掛金で相殺する取引です。そのため、為替手形を使えば入出金なしで買掛金を消し込めます。
本来であれば、自社の買掛金を支払い、さらに他社への売掛金を回収するというプロセスが必要です。しかし、為替手形を利用すれば買掛金と売掛金が同時に決済され、取引負担が大幅に軽減され
ます。
社会的信用を得られる
手形は誰でも振り出せるものではありません。手形を振り出せるのは、銀行の審査を通り「当座勘定取引契約」を締結した企業のみだからです。そのため、為替手形は一定以上の信用がある取り引きと考えられています。
手形の受取人は、単純に買掛金の約束をするよりも手形を受けた方が資金を回収しやすいと考えます。手形を振り出すことは、取引相手にとっても安心材料になるのです。
資金回収が確実
手形は一定の強制力を持った契約です。そのため、仮に相手がなかなか売掛金を支払ってくれない場合には、自己受為替手形を振り出すことで資金回収を確実にできます。
もし手形の支払期日に決済ができなければ不渡りになってしまい、取引先の社会的信用が落ちるからです。
このように、手形取引は企業同士のビジネスをスムーズに行うツールとして機能しています。
支払いを先延ばしできる
手形取引は、支払期日を数ヶ月先まで延ばせるという特徴があります。支払期日を延ばせれば、手元にまとまった資金がなくても取引でき、資金繰りにゆとりが持てます。
仮に大きな取引で手元に十分な資金がなくても、数ヶ月後に高額な売掛金の回収が見込まれていれば、手形を振り出すことで当面の取引を完了できるでしょう。
このように、企業の生命線である資金繰りをスムーズにできるのは手形取引の魅力といえます。
支払利息が発生しない
手形取引は支払いを先延ばしにするために利用されることが多いですが、支払利息は発生しません。これは、支払期日が短くても長くても同じです。
支払いのお金が足りず、銀行から融資を受ければ利息が発生します。融資には、銀行と相談したり審査を受けたりと時間がかかります。
手形取引なら融資を受けずに支払いを先延ばしにできるだけでなく、利息もつかないことから、高額な利息で資金が圧迫される心配がないのは大きなメリットといえるでしょう。
為替手形のデメリット
ここからは手形取引のデメリットについて解説します。
不渡りを出すと信用に傷がつく
「不渡り(ふわたり)」とは、なんらかの理由で手形の決済に失敗することを指します。一般的には、資金が足りずに手形の額面を用意できないと不渡りになることが多いです。
不渡りを出した企業は「安心して取引できない相手」として世間的な信用に傷がつきます。
具体的には、金融機関から不渡届が手形交換所に提出されます。手形交換所は該当企業を「不渡報告」に掲載し、加盟銀行に通達。該当企業の信用力に問題があることを周知します。
信用に傷がつけば、あらゆるビジネスがスムーズに進まなくなります。これまで買掛で取引していた相手から「即金のみで」と言われたり、銀行から新たに融資を受けるのが難しくなったりします。
期日前に現金化すると利子・手数料が発生する
手形は期日が来るまでお金を引き出せませんが、手形割引を使うと期日前でも現金化できます。しかし、手形割引には「手形割引料」と呼ばれる利子が発生します。そのため、手形に記載されている金額を額面通りに引き出せるわけではありません。
手形割引は銀行や手形割引業者などに依頼できますが、手形割引料はそれぞれです。詳しくは以下の記事を参考にしてみてください。
印紙税が必要になる
為替手形には金額に応じて収入印紙を購入して添付が必要です。具体的には10万円以上の手形には、以下のように印紙税が発生します(一部抜粋)。
支払金額 |
印紙税額 |
10万円未満 |
非課税 |
10万円以上100万円以下 |
200円 |
100万円超200万円以下 |
400円 |
200万円超300万円以下 |
600円 |
300万円超500万円以下 |
1,000円 |
500万円超1,000万円以下 |
2,000円 |
1,000万円超2,000万円以下 |
4,000円 |
2,000万円超3,000万円以下 |
6,000円 |
(参考:国税庁)
為替手形には3種類ある
為替手形には3つの使い方があります。それぞれの特徴を確認しておきましょう。
他人宛為替手形
一般的な為替手形といえば「他人宛為替手形」のことを指します。振出人、支払人、受取人の三者間取引です。振出人が支払人に対して為替手形を発行し、支払人は受取人に対して期日までに指定された金額を支払います。
使い方としては、前述した花農家、花屋、結婚式場のような状況で利用されます。業界的には化粧品、農業資材、医療業界では為替手形が比較的よく使われるといわれています。
自己宛為替手形
振出人と支払人が同一人物になるパターンの為替手形です。振出人は自身を支払人として受取人に為替手形を発行します。
二者間取引になるため、形式としては約束手形と変わりません。ただし、為替手形に添付する収入印紙は受取人が支払うことになるのが特徴です。
自己宛為替手形は本社と支社があるような、中規模以上の会社でよく用いられています。
たとえば、東京に本社、大阪に支社がある企業を考えてみましょう。東京本社が、大阪の取引先に買掛金を支払う場合、東京本社よりも大阪支社の方が距離が近くコミュニケーションが取りやすいと考えます。
このように、同じ会社ではあるものの、別の支社が支払うことにするのです。こういう場合に、大阪支社を支払人にした自己宛為替手形を発行します。
また、自己宛為替手形を使うと、取立手数料の節約にもなるメリットがあります。
自己受為替手形
振出人と受取人が同一人物になるパターンの為替手形です。自己受為替手形は、手形を発行した本人が支払いを受ける形になります。自己受為替手形は取引先が売掛金を支払ってくれないケースに利用されます。
たとえば、A社がB社に100万円の売掛金を持っているとして、B社が売掛金の支払いを渋っているとします。この場合、A社は自己受為替手形を発行してB社に支払義務を負わせます。もし、B社が支払わないと不渡りとなりB社の信用は落ちるため、確実に売掛金を回収できるという仕組みです。
為替手形取引の見方
(画像引用元:東春信用金庫)
為替手形の各項目は以下のとおりです。これら項目に加え、収入印紙を貼付します。また各企業(個人)の捺印も忘れないようにしましょう。
- 支払人(引受人、名宛人):手形に記載された代金を支払う企業(個人)名
- 金額:支払う金額
- 受取人(指図人):手形の代金を受け取る企業(個人)名
- 振出日:手形作成日
- 振出地住所:振出人の住所と会社名
- 振出人(手形作成者):手形を振り出した企業(個人)名
- 支払日(支払期日):手形の金額を支払う日付。支払日は、支払人が指定
- 支払地:支払う金融機関の住所。都道府県名+市区町村
- 支払場所:金融機関名と支店名
- 引受日:支払人が、為替手形を引き受けた日。手形を引き受けた企業(個人)名も記載
為替手形のルール
為替手形には独特なルールが存在します。ルールを知らないと、トラブルになる可能性もあるのでしっかり確認しておきましょう。
振出人が空欄だと印紙税負担者が変動する
本来、印紙税は課税文書を作成した本人が負担するのがルールです。為替手形も課税文書であるため収入印紙を貼付するのですが、印紙税を負担するのは手形の作成者である振出人です。しかし、あえて振出人を空欄にしている場合があります。いわゆる「白地手形」と呼ばれる状態です。
振出人が空欄の為替手形は、手形としての効力を持ちません。手形を成立させるには誰かが振出人欄を補充する必要があります。この場合、受取人が振出人欄に記載し、印紙税を負担します。
為替手形の裏書をすると支払義務が発生する
手形は第三者に譲ることができます。その際、手形の裏に譲渡情報を記載することを「裏書」といいます。裏書には「元の持ち主(裏書人)」と「譲り受ける人(被裏書人)」の情報を記入すると、手形を譲り受けた人は期日が来たら手形の金額を受け取れるのです。
裏書譲渡した場合、手形が不渡りが起きると裏書人(手形を譲った人)に支払義務が発生します。そのため、裏書する際には支払人に支払能力が十分にあるかを判断する必要があります。
為替手形取引を仕訳する方法
ここからは為替手形を仕訳する方法を振出人(A社)、支払人(B社)、受取人(C社)の3つの立場からそれぞれ解説します。冒頭の例でいうとA社は花屋、B社は結婚式場、C社は花農家という図式になります。
為替手形は、三者取引であるため少し複雑ですが、場面ごとに仕訳すればそこまで混乱しません。ここでは、A社はB社に売掛金100万円とC社に買掛金100万円を持っていて、為替手形を振り出すケースを考えてみます。
引き受け時
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借方 |
金額 |
貸方 |
金額 |
振出人(A社) |
- |
- |
- |
- |
支払人(B社) |
買掛金 |
100万円 |
支払手形 |
100万円 |
受取人(C社) |
- |
- |
- |
- |
まず、振出人(A社)が支払人(B社)に対して100万円の為替手形を提示し、支払人(B社)が手形を引き受けます。この時点で支払人(B社)の買掛金は支払手形として計上されます。
振り出し時
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借方 |
金額 |
貸方 |
金額 |
振出人(A社) |
買掛金 |
100万円 |
売掛金 |
100万円 |
支払人(B社) |
- |
- |
- |
- |
受取人(C社) |
受取手形 |
100万円 |
売上 |
100万円 |
続いて、振出人(A社)が為替手形を振り出します。この時点で振出人(A社)が持つ買掛金と売掛金は相殺され、受取人(C社)は振出人(花屋)に対する売上が受取手形として資産計上されます。
手形代金の支払い時
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借方 |
金額 |
貸方 |
金額 |
振出人(A社) |
- |
- |
- |
- |
支払人(B社) |
支払手形 |
100万円 |
当座預金 |
100万円 |
受取人(C社) |
当座預金 |
100万円 |
受取手形 |
100万円 |
最後に為替手形の期日が来て、受取人(C社)が手形を提示して100万円が決済されます。
為替手形について種類や仕組みなどを解説しました
為替手形は三者間だけでなく二者間取引でも使える取引方法です。ルールが複雑ではありますが、本記事を参考にしながら仕訳などに対応してみてください。
為替手形を使った取引は減少傾向にありますが、いつ為替手形を渡されるかもわかりません。いざというときのためにも、今回の記事をもとに理解を深めましょう。